FINAL HOME
Autumn/Winter 1999-2000
“Protects” by Final Home
August 1999
MR. High Fashion No.91
Photography by Naoki Ishizaka
Makeup & hair by Koji Ohara (Femme)
Modeling by Héctor
〝保護する〞という名のデザイン。
服が持つ本来の機能性をデザインというフィルターに通すことで現代のモードをクリエートしているファイナル・ホーム。デビュー以来プロテクトをテーマにした津村耕佑によるデザインは、着やすさとポップなディテールで海外のファッショナブルな男性たちからも共感を得ているようだ。この秋冬は、ダッフルコートやラペルカラーのジャケットなどトラディショナルなアイテムも登場し、幅広いコーディネーションが楽しめそうだ。
〝保護する〞という名のデザイン。
服が持つ本来の機能性をデザインというフィルターに通すことで現代のモードをクリエートしているファイナル・ホーム。デビュー以来プロテクトをテーマにした津村耕佑によるデザインは、着やすさとポップなディテールで海外のファッショナブルな男性たちからも共感を得ているようだ。この秋冬は、ダッフルコートやラペルカラーのジャケットなどトラディショナルなアイテムも登場し、幅広いコーディネーションが楽しめそうだ。
右ページ 防弾チョッキのようなベストは、背中についたバッグとフロントの大きなポケットが機能的。ベスト¥13,000、フリースをコーティング加工でハードな質感にしたグレーのパーカ¥17,000、ベージュのコットンのパンツ¥15,000
左ページ 薄手フリースのパーカはフィットしたフードのシルエットが特徴。スタンプのようなフラワー柄が施された中綿入りのオレンジのベスト¥25,000、カーキのパーカ¥26,000
製品 すべてファイナル・ホーム(エイ・ネット)
右ページ 防弾チョッキのようなベストは、背中についたバッグとフロントの大きなポケットが機能的。ベスト¥13,000、フリースをコーティング加工でハードな質感にしたグレーのパーカ¥17,000、ベージュのコットンのパンツ¥15,000
左ページ 薄手フリースのパーカはフィットしたフードのシルエットが特徴。スタンプのようなフラワー柄が施された中綿入りのオレンジのベスト¥25,000、カーキのパーカ¥26,000
製品 すべてファイナル・ホーム(エイ・ネット)
右ページ インナーのカットソーはコットンにポリウレタン樹脂をコーティングしている。薄手フリースのジップアップパーカ¥13,000、グリーンのカットソー¥10,000、タータンチェックのバーミューダパンツ¥19,000、リストバンド¥2,500
左ページ 定番型のコートは、ファスナーを開いて全体にクッションを詰めることで防寒着となる。オレンジは秋冬のポイントカラー。ナイロンのハーフコート¥16,000、同素材のパンツ¥14,000
製品 すべてファイナル・ホーム(エイ・ネット)
右ページ インナーのカットソーはコットンにポリウレタン樹脂をコーティングしている。薄手フリースのジップアップパーカ¥13,000、グリーンのカットソー¥10,000、タータンチェックのバーミューダパンツ¥19,000、リストバンド¥2,500
左ページ 定番型のコートは、ファスナーを開いて全体にクッションを詰めることで防寒着となる。オレンジは秋冬のポイントカラー。ナイロンのハーフコート¥16,000、同素材のパンツ¥14,000
製品 すべてファイナル・ホーム(エイ・ネット)
FINAL HOME: VISIBLE FUNCTION
October 1999
MR. High Fashion No.92
Interview & text by Nobuko Kojima
Photography by Daisaku Ito (B.P.B.)
見える、機能。
FINAL HOMEの出発点は、’91年に作られた1着のジャケットだ。全体が単行本ほどの大きさのポケットに区切られ、そこに入れるものによって機能が変わる。防寒には羽毛を入れたポケットサイズの袋を、避暑には保冷剤を入れればいいし、旅行には、着替え、洗面道具、おやつもしのばせて、かばんいらず。貴重品や身の回り品を詰めれば、サバイバルキット。なんとか暮らしていけそうだ。名づけて「究極の家」。それがブランド名になった。一貫したコンセプトは、Protection & Function。津村耕佑は、図面から起こしたように、服の持つ保護性と機能性を明らかにしてみせる。
見える、機能。
FINAL HOMEの出発点は、’91年に作られた1着のジャケットだ。全体が単行本ほどの大きさのポケットに区切られ、そこに入れるものによって機能が変わる。防寒には羽毛を入れたポケットサイズの袋を、避暑には保冷剤を入れればいいし、旅行には、着替え、洗面道具、おやつもしのばせて、かばんいらず。貴重品や身の回り品を詰めれば、サバイバルキット。なんとか暮らしていけそうだ。名づけて「究極の家」。それがブランド名になった。一貫したコンセプトは、Protection & Function。津村耕佑は、図面から起こしたように、服の持つ保護性と機能性を明らかにしてみせる。
DESIGNER'S SPECIAL FROM TOKYO
東京・江東区の新大橋にあるデザイン室は、イッセイ ミヤケ・グループの関連会社であるエイ・ネットのオフィス内。もともと運輸会社の倉庫だった建物を改築したロフト風のデザイン室は、天井が高く、開放的な空気感が漂う場所だ。ミーティングスペースの奥にある窓とその先のベランダからは、間近に流れる隅田川を望むことができる。
DESIGNER'S SPECIAL FROM TOKYO
東京・江東区の新大橋にあるデザイン室は、イッセイ ミヤケ・グループの関連会社であるエイ・ネットのオフィス内。もともと運輸会社の倉庫だった建物を改築したロフト風のデザイン室は、天井が高く、開放的な空気感が漂う場所だ。ミーティングスペースの奥にある窓とその先のベランダからは、間近に流れる隅田川を望むことができる。
Kosuke Tsumura
FUTURE
ファイナル・ホームのデザイン室は、隅田川の河畔に立つエイ・ネットのビルにある。並びには日本版ブラインドともいえる、よしずの家内工業やちょうちん屋が残っていたりして、一瞬タイムスリップの気分を味わった。江東区新大橋。名物は深川井。カレーパン発祥の地でもある。ビルのエントランスは、白木のフローリングにメタルのパネル。元倉庫だっただけに気分はソーホーのロフトだが、振り返ると正面にお向いの〝〇山〇吉商店〞の古めかしい看板文字が。四階の広いミーティングルームは隅田川の見通しがいい。対岸に高速道路が走り、大きな看板が林立している。このミックス感、どこかで見た。映画の「ブレードランナー」だ。後で津村耕佑にきくと、彼の大好きな映画だそうだ。
仕事場に入ると、またもロフト気分は一転して、秩序なきカオスの世界。デスクの上には、デッサン帳や文房具のほかにバンやコンビニのお惣菜、壁には地図と子どもの絵。本棚には医療器具などのカタログ、レゴや茶道の解説書、ジャスパー・ジョーンズやラウシェンバーグの画集。「コンセプチュアルな作り方をしているので、環境に左右されることはないけれど、この辺は好きです。情報に左右されず、納得のいくものをこつこつ作っている地域だから。ファッションが成立するのは都心でも、アイディアはどこでだって得られる。机の上、飛行機の中、道を歩いているとき。新しいテクニックをつくり出そうというムードは、映画のイメージだったりするけど、テクニック自体は布をいじりながら見つけていく。けっこう家具や身の回りのものにヒントが潜んでいるんです」。彼は機械に取り組む町工場の技術者のように、あるいは熱中してプラモデルを組み立てる少年のようにデザインをしているのではないか。服全体の構造とディテールが、精密に組み合わされている。分解するように袖やフードを取り外せるダッフルコート。ジッパーでサイズを変えられるパンツ。表はトラディショナル、裏はジッパー使いの、カジュアルなリバーシブルジャケット。ポケットがティッシュペーパーケースのTシャツなどなど。機能的に見せる服は多いが、機能そのもの、機能が見える服はファイナル・ホームだけかもしれない。中には隠された仕掛けを楽しむ服もあって、それも彼らしいのだが。「’60年代、’70年代のSF映画や、コミック、カタログが好きなのは、科学の発展や進歩が目に見える形としてあったから。時代の方向性、スピード感と物のデザインが合っていた。科学と人間の明るい明日を信じていた、’60年代の未来像が好きなんです。『ブレードランナー』にしても、ハイテクなものとアジア的なものとがミックスされた都市像は、一種の世紀末感なんだけれど絶望はない。今は先に進みすぎて、よく見えない。二一世紀へ跳び越えたいんだけれどできない。ガーデニングやヒーリングは、スローモーションかストップの願望だと思う」。時の旅人としての人間にとって、彼の服は明日へ生き延びるためのツールでもあるのだ。
HOME
「自然の中に家がぽつんと立っている場面はオブジェとして際立って見えるけれど、もう幻想でしかない。集合住宅に住む人間にとって、家とは部屋という単なる内部空間。そうすると僕には、家を出てからのアーケードも地下鉄も仕事場もどこかの店も同じ空間のつながりという気がする。違いは家具や飾りだけ。だからみんな自分の好きなもので部屋を一杯にするんだね。どういじって気分よくするか」。中と外の差がなくなってきているという、彼の直感は正しい。二〇世紀後半に入ってから、家の役割は減少し続けているのだから。大家族を抱え、大きな家を建てるのが成功のあかしだった時代に比べ、同居が減り、子どもの出生率は下がり、家族の人数は極端に少なくなってしまった。ファストフードのおかげで、家で煮炊きをしなくても食べていける。最終的に家の機能を集約すると、雨露から保護することと収納に行き着く。それをさらに簡素化させ凝縮させたものが、ファイナル・ホーム・ジャケットだ。「作った当時は世紀末的なデカダンな気持ちもあったけれど、ブランドとして立ち上げるに当たっては、ポジティブでニュートラルな精神で行こうと。本来服の持つ、雨、寒さ、日光から守るというハードな部分だけでなく、安心感、解放感といったメンタルな面もフォローして、素材、色、柄、機能も考えていく」。その上で彼は、着る人に仕上げをゆだねている。部屋を飾るように、ポケットに何を入れてもいい。パーツをどうアレンジしてもいい。自分の服を作って、と投げかける。
NEW YORK
彼の仕事場に、竹刀があった。その前は、サンドバッグを愛用していた。〝侠気〞を信条とする意外な一面。さらに意外だったのは、子どものころからファッションが好きで、高校生時代は自分の服を縫っていたという。だから今も仕事にプラモ少年の熱心さを持ち続けていられるのだ。独学で’82年、デザイナーの登竜門であった装苑賞受賞。翌年、三宅デザイン事務所入社。コレクションのアシスタントを経て、’94年にレディズの現KOSUKE TSUMURAとユニセックスのFINAL HOMEを設立。同年、パリ・コレクション、東京コレクションに初参加。そして毎日ファッション大賞新人賞受賞。ここ数年、ロンドンとパリの合同展示会に出品。ヨーロッパで売行きに火がついた。「海外を意識することで、デザインがより強くなる。誰にでも理解できる特性と、高い完成度を持たせなければならないから。コンセプトがあって物を作って、それがビジネスに結びつくという理想の形ができればうれしい」
九月には海外最初の路面店が、ニューヨークにオープンする。ソーホーがブランド街になった今、最もホットな地域として注目のノリータ地区。「アメリカは、コミック、ポップアートなど、大衆文化が生まれた国だから、わかりやすさが必要。エスニックではなくて、ソニーのように技術的な性能を売りにしたい。アウトドアのカタログが発達しているし、発明好きの人がいっぱいいるので、おもしろがってくれそうな気もします。外国人の建築家に、僕の服はきものみたいだと言われたことがあった。和服は直線カットで、懐や袖や帯にものをしまえるでしょう。機能には、言葉やジャンルを越えた説得力があると思う」。これからはアイディアを、インテリアに応用していくのが課題だという。ポケットつきのいすカバーとか、壁とか。服と家の新しい展開が楽しみだ。
FUTURE
ファイナル・ホームのデザイン室は、隅田川の河畔に立つエイ・ネットのビルにある。並びには日本版ブラインドともいえる、よしずの家内工業やちょうちん屋が残っていたりして、一瞬タイムスリップの気分を味わった。江東区新大橋。名物は深川井。カレーパン発祥の地でもある。ビルのエントランスは、白木のフローリングにメタルのパネル。元倉庫だっただけに気分はソーホーのロフトだが、振り返ると正面にお向いの〝〇山〇吉商店〞の古めかしい看板文字が。四階の広いミーティングルームは隅田川の見通しがいい。対岸に高速道路が走り、大きな看板が林立している。このミックス感、どこかで見た。映画の「ブレードランナー」だ。後で津村耕佑にきくと、彼の大好きな映画だそうだ。
仕事場に入ると、またもロフト気分は一転して、秩序なきカオスの世界。デスクの上には、デッサン帳や文房具のほかにバンやコンビニのお惣菜、壁には地図と子どもの絵。本棚には医療器具などのカタログ、レゴや茶道の解説書、ジャスパー・ジョーンズやラウシェンバーグの画集。「コンセプチュアルな作り方をしているので、環境に左右されることはないけれど、この辺は好きです。情報に左右されず、納得のいくものをこつこつ作っている地域だから。ファッションが成立するのは都心でも、アイディアはどこでだって得られる。机の上、飛行機の中、道を歩いているとき。新しいテクニックをつくり出そうというムードは、映画のイメージだったりするけど、テクニック自体は布をいじりながら見つけていく。けっこう家具や身の回りのものにヒントが潜んでいるんです」。彼は機械に取り組む町工場の技術者のように、あるいは熱中してプラモデルを組み立てる少年のようにデザインをしているのではないか。服全体の構造とディテールが、精密に組み合わされている。分解するように袖やフードを取り外せるダッフルコート。ジッパーでサイズを変えられるパンツ。表はトラディショナル、裏はジッパー使いの、カジュアルなリバーシブルジャケット。ポケットがティッシュペーパーケースのTシャツなどなど。機能的に見せる服は多いが、機能そのもの、機能が見える服はファイナル・ホームだけかもしれない。中には隠された仕掛けを楽しむ服もあって、それも彼らしいのだが。「’60年代、’70年代のSF映画や、コミック、カタログが好きなのは、科学の発展や進歩が目に見える形としてあったから。時代の方向性、スピード感と物のデザインが合っていた。科学と人間の明るい明日を信じていた、’60年代の未来像が好きなんです。『ブレードランナー』にしても、ハイテクなものとアジア的なものとがミックスされた都市像は、一種の世紀末感なんだけれど絶望はない。今は先に進みすぎて、よく見えない。二一世紀へ跳び越えたいんだけれどできない。ガーデニングやヒーリングは、スローモーションかストップの願望だと思う」。時の旅人としての人間にとって、彼の服は明日へ生き延びるためのツールでもあるのだ。
HOME
「自然の中に家がぽつんと立っている場面はオブジェとして際立って見えるけれど、もう幻想でしかない。集合住宅に住む人間にとって、家とは部屋という単なる内部空間。そうすると僕には、家を出てからのアーケードも地下鉄も仕事場もどこかの店も同じ空間のつながりという気がする。違いは家具や飾りだけ。だからみんな自分の好きなもので部屋を一杯にするんだね。どういじって気分よくするか」。中と外の差がなくなってきているという、彼の直感は正しい。二〇世紀後半に入ってから、家の役割は減少し続けているのだから。大家族を抱え、大きな家を建てるのが成功のあかしだった時代に比べ、同居が減り、子どもの出生率は下がり、家族の人数は極端に少なくなってしまった。ファストフードのおかげで、家で煮炊きをしなくても食べていける。最終的に家の機能を集約すると、雨露から保護することと収納に行き着く。それをさらに簡素化させ凝縮させたものが、ファイナル・ホーム・ジャケットだ。「作った当時は世紀末的なデカダンな気持ちもあったけれど、ブランドとして立ち上げるに当たっては、ポジティブでニュートラルな精神で行こうと。本来服の持つ、雨、寒さ、日光から守るというハードな部分だけでなく、安心感、解放感といったメンタルな面もフォローして、素材、色、柄、機能も考えていく」。その上で彼は、着る人に仕上げをゆだねている。部屋を飾るように、ポケットに何を入れてもいい。パーツをどうアレンジしてもいい。自分の服を作って、と投げかける。
NEW YORK
彼の仕事場に、竹刀があった。その前は、サンドバッグを愛用していた。〝侠気〞を信条とする意外な一面。さらに意外だったのは、子どものころからファッションが好きで、高校生時代は自分の服を縫っていたという。だから今も仕事にプラモ少年の熱心さを持ち続けていられるのだ。独学で’82年、デザイナーの登竜門であった装苑賞受賞。翌年、三宅デザイン事務所入社。コレクションのアシスタントを経て、’94年にレディズの現KOSUKE TSUMURAとユニセックスのFINAL HOMEを設立。同年、パリ・コレクション、東京コレクションに初参加。そして毎日ファッション大賞新人賞受賞。ここ数年、ロンドンとパリの合同展示会に出品。ヨーロッパで売行きに火がついた。「海外を意識することで、デザインがより強くなる。誰にでも理解できる特性と、高い完成度を持たせなければならないから。コンセプトがあって物を作って、それがビジネスに結びつくという理想の形ができればうれしい」
九月には海外最初の路面店が、ニューヨークにオープンする。ソーホーがブランド街になった今、最もホットな地域として注目のノリータ地区。「アメリカは、コミック、ポップアートなど、大衆文化が生まれた国だから、わかりやすさが必要。エスニックではなくて、ソニーのように技術的な性能を売りにしたい。アウトドアのカタログが発達しているし、発明好きの人がいっぱいいるので、おもしろがってくれそうな気もします。外国人の建築家に、僕の服はきものみたいだと言われたことがあった。和服は直線カットで、懐や袖や帯にものをしまえるでしょう。機能には、言葉やジャンルを越えた説得力があると思う」。これからはアイディアを、インテリアに応用していくのが課題だという。ポケットつきのいすカバーとか、壁とか。服と家の新しい展開が楽しみだ。
デザイン室・新大橋。
広いデザイン室をパーティションで仕切った一角に津村の仕事場はある。右上雑誌、写真集、見本帳などといった資料類、つぶしたミネラルウォーターの空パック、オブジェやアンティークが雑然と、しかし一定の秩序でレイアウトされた本棚。右中 デスク脇の壁にはられた地図は、〝サバイバル〞をテーマに描かれたサラエヴォの街のイラスト。右下本棚の上段、オリジナルのトルソーの奥にひっそりと飾られていた芸妓の写真。左上 ファイナル・ホームのオリジナルクラフトテープ。商品の使用法を説明するイラストにも、機能というファクターにこだわる物作りの姿勢がうかがえる。左下混沌とした中にも彼なりの秩序が保たれている津村のデスク。
デザイン室・新大橋。
広いデザイン室をパーティションで仕切った一角に津村の仕事場はある。右上雑誌、写真集、見本帳などといった資料類、つぶしたミネラルウォーターの空パック、オブジェやアンティークが雑然と、しかし一定の秩序でレイアウトされた本棚。右中 デスク脇の壁にはられた地図は、〝サバイバル〞をテーマに描かれたサラエヴォの街のイラスト。右下本棚の上段、オリジナルのトルソーの奥にひっそりと飾られていた芸妓の写真。左上 ファイナル・ホームのオリジナルクラフトテープ。商品の使用法を説明するイラストにも、機能というファクターにこだわる物作りの姿勢がうかがえる。左下混沌とした中にも彼なりの秩序が保たれている津村のデスク。
PROTECTION
青山のショップ中央に、抱いた赤ちゃんごと女性をすっぽり包むコートがディスプレーされている。秋冬コレクションの象徴として作られたもので、タイトルは〝Mother〞の未来版ママコートは、サイバーパンクなボスターにも使われた。「ジッパーを閉めるとカプセルに入ったように外部を遮断できる。過多な情報をシャットアウトして、母と子のように密接なコミュニケーションを持とうという意味なんです。身近な関係を考える服、いやしのある服として」。ここでも服は体と精神の両方を保護するものとして存在する。黒、カーキ、グレーといったダークなメーンカラーの、差し色はブルゾンやシャツのオレンジ。蓮の花のプリントが目にやさしい。製品がほとんどナイロン、フリース、ボアなどの新素材なのは、強く、軽く、汚れにくく、安いからだ。さらにコーティングして、防水性や撥水性、気密性を加える。服だけでなく、ブーツには防御材を入れて、ぶつけても、ものが落ちてきても安全な仕組み。フードのような帽子は、さらにヘッドフォーンまで保護するニューアイテムだ。
もしかしたら津村耕佑は、音楽のように服を作っているのかもしれない。ベースをつまびくロック少年の熱心さで。メロディを組み立てるようにシルエットを構成し、言葉をつなげるようにディテールを定着させる。仕上りはハードでも、コンセプトは熱いメッセージとして着る人の心に届く。
青山のショップ中央に、抱いた赤ちゃんごと女性をすっぽり包むコートがディスプレーされている。秋冬コレクションの象徴として作られたもので、タイトルは〝Mother〞の未来版ママコートは、サイバーパンクなボスターにも使われた。「ジッパーを閉めるとカプセルに入ったように外部を遮断できる。過多な情報をシャットアウトして、母と子のように密接なコミュニケーションを持とうという意味なんです。身近な関係を考える服、いやしのある服として」。ここでも服は体と精神の両方を保護するものとして存在する。黒、カーキ、グレーといったダークなメーンカラーの、差し色はブルゾンやシャツのオレンジ。蓮の花のプリントが目にやさしい。製品がほとんどナイロン、フリース、ボアなどの新素材なのは、強く、軽く、汚れにくく、安いからだ。さらにコーティングして、防水性や撥水性、気密性を加える。服だけでなく、ブーツには防御材を入れて、ぶつけても、ものが落ちてきても安全な仕組み。フードのような帽子は、さらにヘッドフォーンまで保護するニューアイテムだ。
もしかしたら津村耕佑は、音楽のように服を作っているのかもしれない。ベースをつまびくロック少年の熱心さで。メロディを組み立てるようにシルエットを構成し、言葉をつなげるようにディテールを定着させる。仕上りはハードでも、コンセプトは熱いメッセージとして着る人の心に届く。
ショップ・南青山
地下鉄表参道の駅から5分ほど歩いた一角、フラッグシップショップはレディズブランドのKOSUKE TSUMURAが入ったビルの2階にある。スチール、コンクリート、段ボールなど無機的なマテリアルで構成された空間は、津村自らディスプレーを手がけたもの。左下は、レジカウンターの奥にディスプレーも兼ねてパッケージされた状態のままストックされているファイナル・ホームの定番 コート。
東京都港区南青山5の6の5 電話03-3407-0329 営業時間=11時~20時 年中無休
〝プロテクション〞という一つのキーワードでくくられるアイテム群。右上ナイロン製のテディベア型ポーチ。中上ナイロンキャンバスのライフル型バッグ。右下今シーズンのモチーフである母性を端的に具現化したコクーン型のコート〝Mother〞。左ファイナル・ホームの定番商品。身頃と袖に並んだファスナーをあけると、表地と裏地との間がすべてポケット状態になっている。ビニールや新聞紙を詰めると高い保温効果が得られるというもの。
ショップ・南青山
地下鉄表参道の駅から5分ほど歩いた一角、フラッグシップショップはレディズブランドのKOSUKE TSUMURAが入ったビルの2階にある。スチール、コンクリート、段ボールなど無機的なマテリアルで構成された空間は、津村自らディスプレーを手がけたもの。左下は、レジカウンターの奥にディスプレーも兼ねてパッケージされた状態のままストックされているファイナル・ホームの定番 コート。
東京都港区南青山5の6の5 電話03-3407-0329 営業時間=11時~20時 年中無休
〝プロテクション〞という一つのキーワードでくくられるアイテム群。右上ナイロン製のテディベア型ポーチ。中上ナイロンキャンバスのライフル型バッグ。右下今シーズンのモチーフである母性を端的に具現化したコクーン型のコート〝Mother〞。左ファイナル・ホームの定番商品。身頃と袖に並んだファスナーをあけると、表地と裏地との間がすべてポケット状態になっている。ビニールや新聞紙を詰めると高い保温効果が得られるというもの。
FUNCTION
メンズという先入観があったせいか、スタート時は男女半々、現在はメンズとしての需要がやや多いという比率を聞いて、顧客の女性たちを心強く思った。わぉ、「ターミネーター2」のリンダ・ハミルトンみたい。ユニセックスの服の場合、デザイナーはどんな男性像女性像を目指しているのだろうか。「人間像なんて、考えませんね。インダストリアルの発想で、服を物として存在させているのだから。ジーンズと同じ。着る人の個性でアレンジすればいい」。確かにジーンズの機能は、性別にも年齢にも、似合う似合わないにも関係ない。着るか着ないかだけだ。それに男と女の機能だって変わってきている。「男の特性、例えば腕力が強くたって発揮する機会がない。料理好きの男もいっぱいいるし。僕はファッションとして性を利用する立場にいないので、ジェンダーにはあまり興味がないんです」
店内はワイヤのかごやリノリウムの床で、DIYのホームセンターのよう。津村が仕入れてきたUSA製の梱包材や工具類が、実用品の迫力を感じさせる。足もとにうずくまるのは、人間への保護性を高めるために作られた、自動車の衝突実験用のダミー。ここにただの飾りものは一つもない。服もバッグも、アーミーナイフを選ぶように、機能を数えられ、精度を計られ、耐久度を試されて、納得した人のものになる。もちろんパッケージは、丈夫な茶紙の袋と段ボールのボックスだ。
メンズという先入観があったせいか、スタート時は男女半々、現在はメンズとしての需要がやや多いという比率を聞いて、顧客の女性たちを心強く思った。わぉ、「ターミネーター2」のリンダ・ハミルトンみたい。ユニセックスの服の場合、デザイナーはどんな男性像女性像を目指しているのだろうか。「人間像なんて、考えませんね。インダストリアルの発想で、服を物として存在させているのだから。ジーンズと同じ。着る人の個性でアレンジすればいい」。確かにジーンズの機能は、性別にも年齢にも、似合う似合わないにも関係ない。着るか着ないかだけだ。それに男と女の機能だって変わってきている。「男の特性、例えば腕力が強くたって発揮する機会がない。料理好きの男もいっぱいいるし。僕はファッションとして性を利用する立場にいないので、ジェンダーにはあまり興味がないんです」
店内はワイヤのかごやリノリウムの床で、DIYのホームセンターのよう。津村が仕入れてきたUSA製の梱包材や工具類が、実用品の迫力を感じさせる。足もとにうずくまるのは、人間への保護性を高めるために作られた、自動車の衝突実験用のダミー。ここにただの飾りものは一つもない。服もバッグも、アーミーナイフを選ぶように、機能を数えられ、精度を計られ、耐久度を試されて、納得した人のものになる。もちろんパッケージは、丈夫な茶紙の袋と段ボールのボックスだ。
〝機能〞という側面もまた、このブランドの重要なアイデンティティだ。右ショップの入り口正面にディスプレーされている、自動車の衝突実験用ダミー。上右スチールの質感にこだわって特注したというワイヤシェルフ。上左津村が買い付けてきた、青山店限定商品のDIY用品。これは直径30センチほどのコードリール。中カード状に圧縮されたTシャツ。パッケージには氏名、年齢、血液型などが書き込めるラベルがはってある。下右同じく青山店の限定商品。プラスチック製の梱包材、ナイロンメッシュのひもつき袋など。使い方は買った人の工夫次第というところ。下左靴も機能をデザインする腕の見せどころだ。